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蹴る群れ
蹴る群れ
蹴る群れ
木村 元彦
定価: ¥ 1,680
販売価格: ¥ 1,680
人気ランキング: 124780位
おすすめ度:
発売日: 2007-02-16
発売元: 講談社
発送可能時期: 通常24時間以内に発送
現代史を感じ取れる稀有なサッカー・ノンフィクション
木村さんを有名にした『オシムの言葉』では、イビチャ・オシムというフットボーラーの半生から、ユーゴスラビアの抱えていた問題やサッカー観の歴史が映し出されたように、この『蹴る群れ』では特定のフットボーラー(あるいはチーム)のそれまでの苦闘から、その国や民族、地域の歴史が映し出されている。
そして、取材対象がジダンやロナウジーニョなどのような、他のジャーナリストも取材するような“ありきたり”な人物ではない。
例えば、イルハン・マンスズの半生は、ドイツ在住トルコ移民の苦悩そのものだと感じたし、デヤン・サビチェビッチは、セルビアからの独立か否かに揺れるモンテネグロの歴史そのものだ。
また、ハンス・フォルクは、南アフリカで生まれ、オランダで育ち、プロになり、再度南アフリカ代表としてフランスW杯に出場したGKである。このときの監督はフィリップ・トルシエで、白人はこのふたりだけ。 サッカーを通じて、黒人のフィールドプレーヤーと戦う集団を作っていく様は、人種差別の解けた南アフリカの縮図のように思える。
世界だけでなく、日本でもアプローチは一緒だ。
Jリーグでも監督となったハシェックやアルディレスも重き運命を背負っていた。
サッカーをやったことが無いのに、宮城県塩釜市にサッカー少年団を立ち上げ、元日本代表の加藤久さんを育てた小幡忠義さんは、塩釜のサッカー史そのものだ。 在日朝鮮人の金さんから在日朝鮮人の不遇の歴史や、'70年代から'80年代の高校サッカーの「裏の歴史」を読み解ける。
旧ユーゴを長年に渡り取材したり、戦渦の中でイラク代表に同行取材したりする日本人は、木村さんぐらいだろう。 コラムニストのえのきどいちろうさんが「現場の踏み方が違う」と評していたが、この本を読むと実感できると思う。
時代に抗って生きてきた「フットボーラーの半生」と読むこともできるだろうし、その背後にある「国の現代史」を描いたノンフィクションとも読むことができるだろう。いずれにしても、これだけはっきりと現代史を感じ取れるサッカー・ノンフィクションは、なかなかない。
政治がスポーツに与える影響について書かれていると感じました
旧ユーゴのような政治的背景がどのようにサッカー選手に影響を与えているかということについて書かれています。
各選手や関係者に実際に取材しているので、実際の感情と言うものが伝わってきます。
政治とスポーツは関係がない、ということが言いきれないという事実も分かりました。
また、90年代の取材も載っており、筆者がオシム監督や旧ユーゴだけでなく、サッカーというスポーツに大変思い入れがあるということも分かりました。
サッカーファンだけでなく、政治関係の人にも読んで欲しいと思いました。
旧ユーゴ問題を追い続ける「町のニイちゃん」世界に目を向ける。著者は日本が誇るルポライターだ。
日本ではあり得ないことだが、世界ではサッカーと政治、宗教、民族、人種が密接に絡みあい、切り離すことのできない関係にある国が多い。というか、そうではない国の方が少ないのかもしれない。また、日本人にとって、サッカーを楽しむということは、数ある選択肢の一つに過ぎない場合が多い。熱狂的なサポーターであっても、サッカーが命や誇りをかける対象にまでなっていることはそうないであろう。しかし、ある国の国民にとって、代表(あるいはクラブ)チームは、自分達のアイデンティティーをかけた存在になっている。
これらの視点からサッカーを捉えたルポは、海外のジャーナリストによってかなりの数が発表されているが、わが国において、こういった視点で作品を発表し続ける人物は、著者くらいなのではなかろうか。しかも、その出来は海外作品に引けを取るものではない。
海外作品の多くが報道機関の記者的な高みからの目線で描かれているのと対照的に、著者の作品は、その数少ない作品で度々主張しているように「町のニイちゃん」の目線で描かれている。ニイちゃんとして怒り、笑い、泣き、そしてニイちゃんとして考えるのである。
著者は同じテーマをずっと追い続けている。崩壊した旧ユーゴだ。すべての作品を読めば分かることだが、その姿勢は既にジャーナリスト的興味の範疇を超えている。ある種の使命感みたいなものすら感じる。
本作は、様々な雑誌へ寄稿(ということは出版社からの依頼ではないのか?)したルポ17編をまとめた作品なので、一編一編は短い。一般的に有名な人物は殆ど登場しない。しかし、質的なボリュームは大変なものだ。読み応えがある。
著者は日本が誇る「町のニイちゃん」、そして「ルポライター」である。これからも全世界を駆け巡って欲しい。
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